<?xml version="1.0" encoding="UTF-8"?>
<rss xmlns:content="http://purl.org/rss/1.0/modules/content/" xmlns:dc="http://purl.org/dc/elements/1.1/" xmlns:sy="http://purl.org/rss/1.0/modules/syndication/" xmlns:atom="http://www.w3.org/2005/Atom" version="2.0">
  <channel>
    <title>オーロラ、そこに</title>
    <link>https://mhyfrs.kashi-hondana.com</link>
    <description>オーロラ、そこに・小説更新情報</description>
    <atom:link href="" rel="self" type="application/rss+xml"/>
    <sy:updatePeriod>hourly</sy:updatePeriod>
    <sy:updateFrequency>1</sy:updateFrequency>
    <copyright>Copyright ©2026 古瀬 深早.</copyright>
    <ttl>60</ttl>
    <item>
      <title>夏の共鳴 - 遠い光のアレゴリー</title>
      <link>https://mhyfrs.kashi-hondana.com/author/page/1359/section/31582</link>
      <pubDate>Sun, 27 Oct 2024 01:08:00 +0900</pubDate>
      <description>自作の服飾雑貨が周囲の目にとまり、商品化することが決まった雑貨屋店員の早川冬和（はやかわとわ）。店のオリジナル商品制作に忙しい日々を送っているものの、心の中には忘れられない元恋人・高津直埜（たかつなおや）がいた。
高津からもらった最後のプレゼントを処分した夜、マリア・カラスのアリアが流れる、隠れ家的ネットカフェで再会するふたり。
以来再接近してくる高津に心を揺らしながらも、冬和には復縁に踏み切れない理由があった。
信州のオーダースーツ専門店に生まれ、店の主人だった叔父・由孝（ゆたか）から溺愛されて育った冬和は、ある日突然自分の前から姿を消した由孝のことが今も残り続けている。

「だって、わたしの大事なもの、神様は簡単に奪うから」
「それでも、どうしても、もう一度欲しい。僕、脈があると思いますか」</description>
      <content:encoded><![CDATA[　どのくらい夢中になっていたんだろう。
　自分でもわからなかった。

　たぶん、夕暮れの手前の時刻だった。
　ひらいた窓のむこうから初夏の匂いが届いていたから、五月の連休か、週末の午後だ。かげった日によって手元がかすかに暗く、いつの間にかついていた白熱球の灯りが部屋をひそやかに照らしていた。

　彼が友人から借りてきた、美術館の図録だったと思う。
　海外のものだったはずだ。日本語はどこにも書かれていなかったから。

『どれが一番気に入った？』

　床に座って本をひらく小さなわたしに、その人が問う。
　おもしろがるような、興味深そうな訊き方だ。優しい内緒話の始まりみたいに、そっと響く。静かで深いその声が、小さな書斎の空気をひどくやわらかなものへと変えていた。

　わたしは我に返って振り向く。
　椅子に腰かけた姿で、彼がこちらを見下ろしている。

　答えはすでに決まっていた。

『これ』

　...]]></content:encoded>
    </item>
    <item>
      <title>03 - 春の坂道</title>
      <link>https://mhyfrs.kashi-hondana.com/author/page/632/section/27753</link>
      <pubDate>Thu, 11 Apr 2024 22:55:00 +0900</pubDate>
      <description>Note</description>
      <content:encoded><![CDATA[　そろそろ友達が来るはずだと言う久高くんと別れて、わたしはあの日と同じように長い階段を下り始める。つまずかないくらいの小走りで、まずはいつかの彼が立っていた踊り場まで。

　あの日わたしの前に足を滑らせてきた友達のことを、後日の久高くんは端的に語った。あいつちょっとコンプ多いんだ。だからたまにああいうことするの、と。
　ひとりでだるまやの店頭に立った彼は中学の制服姿だった。袖のところが摩擦でわずかに光っている。卒業式まであと二か月あるけれど、出席する日はそこまで多くないらしい。
　そうなんだ、と答えてから、誰だっていろいろあるよね、と付け足したと思う。
　久高くんはうんと頷きながら、でもおれああいうのだけはちょっと受け付けないんだよね、とつぶやいた。曲げられないものを持っていることを恥じる気持ちでもあるのか、だるまやの前の通りのほうに気を取られたように視線をやっていた。車が来ないか確認して...]]></content:encoded>
    </item>
    <item>
      <title>01 - 春の坂道</title>
      <link>https://mhyfrs.kashi-hondana.com/author/page/632/section/27721</link>
      <pubDate>Sun, 07 Apr 2024 23:04:00 +0900</pubDate>
      <description>Note</description>
      <content:encoded><![CDATA[　桜前線という言葉は、昭和四十年代から使われている造語らしい。

　五分咲きを迎えた桜が頂上で淡く光る、駅前のゆるやかな坂を上りながらそんなことを思い出した。数日前のラジオで知ったのだ。開花と満開の時期を予想したり実際に観測するために、各地の気象台の近くには標準木という選ばれし桜の樹木が存在するということも。
　解説の続くラジオに向かって初めて聞いた、とつぶやきながら、わたしは熱気をあげはじめた鉄板に手をかざしていた。午前十時すぎ、ＡＭラジオののんびりした空気と強くなってきた日差しの中にいた。
　桜前線。そう名付けた人は今どこにいるんだろう。元気で暮らしているんだろうか。

「あれ、｜瑛子《えいこ》さん今日早くない？」

　わたしの足音に気がついたのか、スマートフォンから顔を上げた｜久高《ひさたか》くんが小さく笑った。駅裏から続いている坂の頂上、住宅地へとつながる階段（今度は下りだ）の防護...]]></content:encoded>
    </item>
    <item>
      <title>02 - 春の坂道</title>
      <link>https://mhyfrs.kashi-hondana.com/author/page/632/section/27722</link>
      <pubDate>Sun, 07 Apr 2024 23:04:00 +0900</pubDate>
      <description>Note</description>
      <content:encoded><![CDATA[　そのまま、何となく顔を忘れていくと思っていたのだ。

「いかにも意識高そうな、仕事人間っぽいオネーサンがなんで『だるまや』でたい焼き焼いてんだろう、って思ったんだよね」

　親戚のやっている、小さなプレハブの店で店番をしているところにある日やってきたのがあの殊勝な少年である久高くんだった。肩の位置を落とさなければ手が繋げないくらいの小さな男の子を連れていた。年の離れた弟くんで、おやつに好物のたこ焼きを買いに来たらしい。
　久高くんはエプロン姿のわたしを見てわずかに眉を寄せ、それから思い出したように言った。あ。
　すでに声変わりを迎えている、けれどそこまで低くないその声は、もうあの夜のように焦ってはいなかった。
　　
「なんていうか――今、成功体験が必要で」

　うまく伝わるかなと不安になったけれど、久高くんは特に不思議がることなく「なるほど」と頷いた。それから数秒後、屋台の手伝いで？　と...]]></content:encoded>
    </item>
    <item>
      <title>16-4 - インナー・ヘヴン</title>
      <link>https://mhyfrs.kashi-hondana.com/author/page/1205/section/26831</link>
      <pubDate>Sun, 07 Apr 2024 14:00:00 +0900</pubDate>
      <description>「今でもわたしには暁だけだよ、縒ちゃん」
長年憧れの存在だった侑真くんと偶然街で会ったとき、彼の眼の中に今まで知らなかった色が宿ったような気がした。
その日わたしの隣に立っていたのは大学時代の先輩で、一瞬にして彼の運命を動かし始めてしまったらしい。
学生のうちに起業と結婚を同時に行ってしまった、学内でもひどく目立つ存在だった伊川ひらり。
天才肌で子供っぽい、エネルギーの塊みたいなその人は底に歓喜を宿して生きているように見えた。
自由に生きる彼女に夢中になっていく侑真くんの変化に戸惑いながらも、わたしは不眠に悩む北里さんの部屋へと通い続けている。</description>
      <content:encoded><![CDATA[
　突然落ちた気温に寒い寒いと言い合いながら、北里さんの部屋に戻った。ささやかな宴のあとはすっかり片付けられていて、リビングはすでにいつもの彼の住まいに戻っていた。
　バスタブに湯を張って身体を温め、早々に寝室へと移動する。
　残りのホットワインをふたりで分け合い、午前一時過ぎにはベッドに入った。
　新しい約束が、わたし達を妙に素直にさせていた。悲しくてやわらかな何かを胸に抱え、わたしは静かに満たされていた。彼もそうだったのかもしれない。言葉はあまり要らなかった。これから先に起こることへの心配とか不安も、ひとまずは横に置いておけそうだった。

「何がって言うわけじゃないんだけど――少しだけ、楽しみになってきた気がする。先が」

　静かな声で彼が言った。わたしも、と頷いた。
　気の抜けない世界でも、今確かなものを身体の中心に持っている。内側で何か、汚されないものが灯っている。力強くはなく、時...]]></content:encoded>
    </item>
    <item>
      <title>16-3 - インナー・ヘヴン</title>
      <link>https://mhyfrs.kashi-hondana.com/author/page/1205/section/26830</link>
      <pubDate>Sat, 06 Apr 2024 14:00:00 +0900</pubDate>
      <description>「今でもわたしには暁だけだよ、縒ちゃん」
長年憧れの存在だった侑真くんと偶然街で会ったとき、彼の眼の中に今まで知らなかった色が宿ったような気がした。
その日わたしの隣に立っていたのは大学時代の先輩で、一瞬にして彼の運命を動かし始めてしまったらしい。
学生のうちに起業と結婚を同時に行ってしまった、学内でもひどく目立つ存在だった伊川ひらり。
天才肌で子供っぽい、エネルギーの塊みたいなその人は底に歓喜を宿して生きているように見えた。
自由に生きる彼女に夢中になっていく侑真くんの変化に戸惑いながらも、わたしは不眠に悩む北里さんの部屋へと通い続けている。</description>
      <content:encoded><![CDATA[
　案の定と言うべきだろうか、やはり北里さんはわたしの帰りを待たずに夕食の片付けを終わらせていた。
　手洗いした食器を食洗器に入れ（彼は乾燥機能だけ使う派だけれど、用心のために在宅時以外にはスイッチを入れない）、そのまま部屋を出てきたのかもしれない。
　この辺りにいると送ってきた通り、黒の薄いジャケットを羽織った彼を発見したのは大学の裏手だった。ポケットに手を入れた格好で街灯の下に立っている。
　前髪のあいだに額が大きく出る、自然なセンターパート。細身の身体はひょろっとしていて、物腰にはやはりどこかやわらかさがある。
　実際は外柔内剛というのにぴったりなところもあるし、何にも響かない、暗がりの世界も持っている人だ。
　桜の花びらや夏の雨上がりのまぶしさや森の匂いの届かない、あまりに深く暗い空間を北里さんは抱えている。樹齢何百年の大木が作る樹洞のような、あるいは深海の底のような世界。

　わ...]]></content:encoded>
    </item>
    <item>
      <title>16-2 - インナー・ヘヴン</title>
      <link>https://mhyfrs.kashi-hondana.com/author/page/1205/section/26829</link>
      <pubDate>Sat, 06 Apr 2024 14:00:00 +0900</pubDate>
      <description>「今でもわたしには暁だけだよ、縒ちゃん」
長年憧れの存在だった侑真くんと偶然街で会ったとき、彼の眼の中に今まで知らなかった色が宿ったような気がした。
その日わたしの隣に立っていたのは大学時代の先輩で、一瞬にして彼の運命を動かし始めてしまったらしい。
学生のうちに起業と結婚を同時に行ってしまった、学内でもひどく目立つ存在だった伊川ひらり。
天才肌で子供っぽい、エネルギーの塊みたいなその人は底に歓喜を宿して生きているように見えた。
自由に生きる彼女に夢中になっていく侑真くんの変化に戸惑いながらも、わたしは不眠に悩む北里さんの部屋へと通い続けている。</description>
      <content:encoded><![CDATA[
　場所を借りるだけのつもりだったのに、結局その夜の北里さんは完璧なパーティホスト役まで引き受けてくれた。
　彼は温かく落ち着いた様子で客人を迎え入れた。短い挨拶をしながらごく自然な動きで温かな飲み物をひらりにすすめた。彼女に気を遣わせないようにと適切な質問と話題を繰り出し、得意料理（知らなかった）である魚介のパエリアを振舞ってくれた。こっちはデリバリーだけどと言いながらもあっという間にサラダや副菜がテーブルに並び、わたしも驚いたくらいだった。気温の下がった屋外のベンチでぼろぼろと泣いたばかりのひらりを、彼のもてなしは見事に回復してみせた。
　互いに大人だしと心配はしていなかったけれど、やはりわたしよりもはるかに世渡りに長けたふたりのコミュニケーションはすいすいと円滑だった。彼らはちょうどよくオープンで、礼儀正しく、親しみに満ちたくだけ方で会話を重ね続けた。映画の中のようだ、と話しながらつ...]]></content:encoded>
    </item>
    <item>
      <title>16-1 - インナー・ヘヴン</title>
      <link>https://mhyfrs.kashi-hondana.com/author/page/1205/section/26828</link>
      <pubDate>Fri, 05 Apr 2024 14:00:00 +0900</pubDate>
      <description>「今でもわたしには暁だけだよ、縒ちゃん」
長年憧れの存在だった侑真くんと偶然街で会ったとき、彼の眼の中に今まで知らなかった色が宿ったような気がした。
その日わたしの隣に立っていたのは大学時代の先輩で、一瞬にして彼の運命を動かし始めてしまったらしい。
学生のうちに起業と結婚を同時に行ってしまった、学内でもひどく目立つ存在だった伊川ひらり。
天才肌で子供っぽい、エネルギーの塊みたいなその人は底に歓喜を宿して生きているように見えた。
自由に生きる彼女に夢中になっていく侑真くんの変化に戸惑いながらも、わたしは不眠に悩む北里さんの部屋へと通い続けている。</description>
      <content:encoded><![CDATA[
「待って、愛で心が割れそうだ」

　十五分後、伊川ひらりは目前にそびえる建物を見上げ、バッグを強く抱きしめながらそう叫んでいた。

　あの頃の彼女は明大前からこの町に向かっていたから、別の路線を使ってここを目指すなんて思わなかったかもしれない。駅から住宅街に向かって南下しながら、わたしはひらりがそれにいつ気がつくかひやひやとしていた。狭い二車線の都道から一本奥へと入り、いつもよりわずかに早足でそこを目指した。
　住宅街の中に唐突に現れたような、そう大きくないデザイナーズマンション。
　裏手に出る少し前に、ひらりが小さく息を飲んだ。わたしに案内されようとしている場所は、思ったよりもそこに近いのかもしれないと思ったのだろう。彼女は小さい声で、え、こっちなの、と言ったけれど、自分の話をする夜ではないと思ったのかそれ以上のことは言葉にしなかった。
　はい、と頷きながら、そろそろいいか、と思った。...]]></content:encoded>
    </item>
    <item>
      <title>15-3 - インナー・ヘヴン</title>
      <link>https://mhyfrs.kashi-hondana.com/author/page/1205/section/26638</link>
      <pubDate>Wed, 03 Apr 2024 14:00:00 +0900</pubDate>
      <description>「今でもわたしには暁だけだよ、縒ちゃん」
長年憧れの存在だった侑真くんと偶然街で会ったとき、彼の眼の中に今まで知らなかった色が宿ったような気がした。
その日わたしの隣に立っていたのは大学時代の先輩で、一瞬にして彼の運命を動かし始めてしまったらしい。
学生のうちに起業と結婚を同時に行ってしまった、学内でもひどく目立つ存在だった伊川ひらり。
天才肌で子供っぽい、エネルギーの塊みたいなその人は底に歓喜を宿して生きているように見えた。
自由に生きる彼女に夢中になっていく侑真くんの変化に戸惑いながらも、わたしは不眠に悩む北里さんの部屋へと通い続けている。</description>
      <content:encoded><![CDATA[
「遅れてごめん、出ようとしたら仕事の電話入っちゃった」

　わたしが立ち上がるのに合わせて、ひらりは片手を謝罪として鼻の前に立ててみせた。

「いえ」
「どこか暖かいところで待ってても良かったのに」

　寒くなかったのとわたしを一瞥するので、平気です、と答える。薄手とはいえしっかりと防寒着をまとっているひらりに比べて――着ているオーバーサイズのシャツジャケットは近くで見ると深い紫がかったグレーだった。こんな絶妙な色合いの服どこで見つけてくるのだろう――わたしの上着は確かに少々心細い、襟のない薄いキルトのブルゾンだ。

「それで、お仕事のほうは大丈夫なんですか」

　まだどこかぼうっとしたような気持ちのままひらりに尋ねると、彼女はああという表情で何でもないと答えた。ただの確認。これでもまだ一応代表だからね、と。
　言いながらもわたしの背後のほうに視線をぐるりとまわして、こんなところあったん...]]></content:encoded>
    </item>
    <item>
      <title>15-2 - インナー・ヘヴン</title>
      <link>https://mhyfrs.kashi-hondana.com/author/page/1205/section/26637</link>
      <pubDate>Mon, 01 Apr 2024 14:00:00 +0900</pubDate>
      <description>「今でもわたしには暁だけだよ、縒ちゃん」
長年憧れの存在だった侑真くんと偶然街で会ったとき、彼の眼の中に今まで知らなかった色が宿ったような気がした。
その日わたしの隣に立っていたのは大学時代の先輩で、一瞬にして彼の運命を動かし始めてしまったらしい。
学生のうちに起業と結婚を同時に行ってしまった、学内でもひどく目立つ存在だった伊川ひらり。
天才肌で子供っぽい、エネルギーの塊みたいなその人は底に歓喜を宿して生きているように見えた。
自由に生きる彼女に夢中になっていく侑真くんの変化に戸惑いながらも、わたしは不眠に悩む北里さんの部屋へと通い続けている。</description>
      <content:encoded><![CDATA[
「――縒ちゃん、縒ちゃん」

　地震の揺れ始めのような、がく、という衝撃があった。不時着したような目覚め。
　ゆっくりと目をひらくと、視界の中でいつもと違うことが起きていた。
　北里さんがわたしの右腕のあたりに手を置き、不安げにこちらを覗き込んでいたのだ。

「北里、さん？」

　自分の声にぎょっとする。何気なく出したそれは、ひどく濡れ、つぶれて響いた。
　どうしてこんな声が出るんだろうと思うと同時に、彼が続ける。

「寝ながら泣いてたから」
　
　いかにも心配そうな声で言い、今度はわたしの頬のあたりに親指を伸ばした。
　指の温かさと冷たく濡れた涙の感触が同時に伝わってくる。頬の冷たさと、喉元に感じる、うんと力をこめたあとのような違和感も。
　濡れたまつげの重さを感じながら、瞬きを繰り返した。視界を確認する。
　いつもは消えている、小さな照明がひとつベッドサイトを照らしていた。部屋は薄く...]]></content:encoded>
    </item>
    <item>
      <title>15-1 - インナー・ヘヴン</title>
      <link>https://mhyfrs.kashi-hondana.com/author/page/1205/section/26636</link>
      <pubDate>Sun, 31 Mar 2024 14:00:00 +0900</pubDate>
      <description>「今でもわたしには暁だけだよ、縒ちゃん」
長年憧れの存在だった侑真くんと偶然街で会ったとき、彼の眼の中に今まで知らなかった色が宿ったような気がした。
その日わたしの隣に立っていたのは大学時代の先輩で、一瞬にして彼の運命を動かし始めてしまったらしい。
学生のうちに起業と結婚を同時に行ってしまった、学内でもひどく目立つ存在だった伊川ひらり。
天才肌で子供っぽい、エネルギーの塊みたいなその人は底に歓喜を宿して生きているように見えた。
自由に生きる彼女に夢中になっていく侑真くんの変化に戸惑いながらも、わたしは不眠に悩む北里さんの部屋へと通い続けている。</description>
      <content:encoded><![CDATA[
「そういえば、昨夜スリランカの番号から着信があって」

　スクールの受付周辺を片づけながら、わたしは何気なくそう告げてみる。
　午前十時を過ぎようとしていた。同じフロアにある小さな眼科はすでに診察を開始していて、患者らしき人達が何人も教室の前を行き来しているのが見える。親子連れ、高齢男性、眼帯をつけミント色のブラウスを着た若い女の子。
　ガラス製の自動ドアにクリーナーを吹き付けていた林野さんが、突如上半身をひねるという思いもよらない動きでこちらを振り向いた。

「出てないですよね？」
「出てないです。ワンコールでしたし」
　
　詰めるような言い方に圧倒されて、思わず右手を振ってしまった。
　ちょうど眠る前、アラームが設定されているか確認しようとしたところでのことだった。ぱっと画面が着信中に切り替わって、慌てて指をスマートフォンから離したのだ。知らない番号の横に『スリランカ』と書かれていて...]]></content:encoded>
    </item>
    <item>
      <title>14-4 - インナー・ヘヴン</title>
      <link>https://mhyfrs.kashi-hondana.com/author/page/1205/section/26634</link>
      <pubDate>Fri, 29 Mar 2024 14:00:00 +0900</pubDate>
      <description>「今でもわたしには暁だけだよ、縒ちゃん」
長年憧れの存在だった侑真くんと偶然街で会ったとき、彼の眼の中に今まで知らなかった色が宿ったような気がした。
その日わたしの隣に立っていたのは大学時代の先輩で、一瞬にして彼の運命を動かし始めてしまったらしい。
学生のうちに起業と結婚を同時に行ってしまった、学内でもひどく目立つ存在だった伊川ひらり。
天才肌で子供っぽい、エネルギーの塊みたいなその人は底に歓喜を宿して生きているように見えた。
自由に生きる彼女に夢中になっていく侑真くんの変化に戸惑いながらも、わたしは不眠に悩む北里さんの部屋へと通い続けている。</description>
      <content:encoded><![CDATA[
　彼女の亡き夫について話し続けながら、わたしは横目でちらと侑真くんを盗み見してみる。
　どこか切ない目の中に、疎外感のようなものがちらと覗いた気がした。
　
「亡くなる少し前、覚悟してお見舞いに行ったんだけど――すごく優しい顔で言ったんだ。最後の五年は最高だったって。ひらりが俺を延命したって」

　最後の、という言葉を使うことを、あの日の彼はもうためらわなかった。充分だという顔をして、わたしの手を握り笑っていた。
　あの表情に至るまで、伊川さんの心がどんな道を辿ったのか、辿らなければいけなかったのかはわたしにはわからない。弱っていく身体に押し流され、抗えずにそこに導かれたところだってあったかもしれない。もっと、という言葉から始まる、叶わない、許されない彼の願いはどこに行ったのだろう。

「言葉では難しいんだけど――あの人には、すごいものを見せられた気がするんだよね」

　侑真くんは前方に...]]></content:encoded>
    </item>
    <item>
      <title>14-3 - インナー・ヘヴン</title>
      <link>https://mhyfrs.kashi-hondana.com/author/page/1205/section/26633</link>
      <pubDate>Wed, 27 Mar 2024 14:00:00 +0900</pubDate>
      <description>「今でもわたしには暁だけだよ、縒ちゃん」
長年憧れの存在だった侑真くんと偶然街で会ったとき、彼の眼の中に今まで知らなかった色が宿ったような気がした。
その日わたしの隣に立っていたのは大学時代の先輩で、一瞬にして彼の運命を動かし始めてしまったらしい。
学生のうちに起業と結婚を同時に行ってしまった、学内でもひどく目立つ存在だった伊川ひらり。
天才肌で子供っぽい、エネルギーの塊みたいなその人は底に歓喜を宿して生きているように見えた。
自由に生きる彼女に夢中になっていく侑真くんの変化に戸惑いながらも、わたしは不眠に悩む北里さんの部屋へと通い続けている。</description>
      <content:encoded><![CDATA[
「やっぱりこの時間は混むんだよな。縒ちゃん、時間大丈夫？」

　赤信号を前にゆるやかなブレーキを踏みながら、侑真くんは小さく嘆息した。車内には小さい音で英語の歌詞の音楽が流れている。
　これ誰の曲？　と尋ねたのは会話が途絶えた二回目のときで、彼は少し間を置いたあとにコールドプレイ、と答えた。そのままそのミュージシャンがイギリスのバンドであることを明かしたけれど、何を誤解したのか縒ちゃんはあまりこういうのは聴かないか、と音楽を止めようとした。わたしはそのままにして欲しいと彼に伝え、その音楽について彼に質問をした。
　間を持たせるように、侑真くんは前回彼らが来日したときのライブの話をしてくれた。
　熱心なファンとは言えないけれど、一度観てみたくて何とかチケット取ったんだよね、と。

「大丈夫。今日はもう何も予定ないから」

　夕暮れ時の小金井街道は混みあっていて、たびたび赤信号につかまってし...]]></content:encoded>
    </item>
    <item>
      <title>14-2 - インナー・ヘヴン</title>
      <link>https://mhyfrs.kashi-hondana.com/author/page/1205/section/26632</link>
      <pubDate>Mon, 25 Mar 2024 14:00:00 +0900</pubDate>
      <description>「今でもわたしには暁だけだよ、縒ちゃん」
長年憧れの存在だった侑真くんと偶然街で会ったとき、彼の眼の中に今まで知らなかった色が宿ったような気がした。
その日わたしの隣に立っていたのは大学時代の先輩で、一瞬にして彼の運命を動かし始めてしまったらしい。
学生のうちに起業と結婚を同時に行ってしまった、学内でもひどく目立つ存在だった伊川ひらり。
天才肌で子供っぽい、エネルギーの塊みたいなその人は底に歓喜を宿して生きているように見えた。
自由に生きる彼女に夢中になっていく侑真くんの変化に戸惑いながらも、わたしは不眠に悩む北里さんの部屋へと通い続けている。</description>
      <content:encoded><![CDATA[
「何だか、ぐっと老けたような気がするの」
「そりゃ、うちにいたって時間は経ってるわけだから老けるわよ」

　ハンカチをバッグの中にしまいながら、瑠実子さんが隣に立つ母に言い返す。そんなに心配しなくても今だってさゆりさんのほうが肌のハリは上よ、とも。化粧室の鏡の前で、彼女たちはそれぞれ身だしなみを整えながら会話を続けている。
　瑠実子さんは薬指で目の周りの皮膚をそっと伸ばすようなしぐさをしながら、マスクが刺激になってたみたいね、と続けた。しわも増えたしくすんじゃってる。美容液とか足したほうがいいのかな。いいの知らない？

　再就職祝いだと母とその親友に呼び出され、地元の古いイタリアンの店で食事をした帰りだ。

　仕事が決まったと母に連絡したときにたまたま同席していた彼女は、電話のむこうでずいぶん陽気にこう言った。縒ちゃんお祝いしましょうよ、ヴォーノさんで、と。例の感染から四ヶ月が経った瑠実...]]></content:encoded>
    </item>
    <item>
      <title>14-1 - インナー・ヘヴン</title>
      <link>https://mhyfrs.kashi-hondana.com/author/page/1205/section/26631</link>
      <pubDate>Sat, 23 Mar 2024 14:00:00 +0900</pubDate>
      <description>「今でもわたしには暁だけだよ、縒ちゃん」
長年憧れの存在だった侑真くんと偶然街で会ったとき、彼の眼の中に今まで知らなかった色が宿ったような気がした。
その日わたしの隣に立っていたのは大学時代の先輩で、一瞬にして彼の運命を動かし始めてしまったらしい。
学生のうちに起業と結婚を同時に行ってしまった、学内でもひどく目立つ存在だった伊川ひらり。
天才肌で子供っぽい、エネルギーの塊みたいなその人は底に歓喜を宿して生きているように見えた。
自由に生きる彼女に夢中になっていく侑真くんの変化に戸惑いながらも、わたしは不眠に悩む北里さんの部屋へと通い続けている。</description>
      <content:encoded><![CDATA[
　無になってしまった気がする、という言葉が頭の中に浮かび上がった。
　換気用の大きな扇風機のまわる、図書館のスツールに腰かけ読み終えた本を閉じてすぐのことだった。
　何だかわたし、ここ数年で一旦無になってしまった気がする。

　妙な病気が流行り、仕事を失い、流れ着いたところでじっとしていた。前線から弾かれたような感覚でしばらく巣にこもり――しかも、誰にもそれを咎められず――最近になってやっと、冬眠から醒めた森の動物みたいに外に出た。表面的にはそれだけなのに、内側ではもっと大きなことが起きていたように思えて仕方がなかった。わたしの中で確かに区分されていたはずのものが強くつながりあい、混ざり合い始めている。
　そんな変化を水面下に抱えながら再び戻った世間はやはり混沌としていた。疲弊と消耗、ある種の諦め。それぞれが身を縮めて自らを守っていたのか、すれ違う人の気配がひとまわりほど小さくなって感じ...]]></content:encoded>
    </item>
    <item>
      <title>13-3 - インナー・ヘヴン</title>
      <link>https://mhyfrs.kashi-hondana.com/author/page/1205/section/26629</link>
      <pubDate>Fri, 22 Mar 2024 14:00:00 +0900</pubDate>
      <description>「今でもわたしには暁だけだよ、縒ちゃん」
長年憧れの存在だった侑真くんと偶然街で会ったとき、彼の眼の中に今まで知らなかった色が宿ったような気がした。
その日わたしの隣に立っていたのは大学時代の先輩で、一瞬にして彼の運命を動かし始めてしまったらしい。
学生のうちに起業と結婚を同時に行ってしまった、学内でもひどく目立つ存在だった伊川ひらり。
天才肌で子供っぽい、エネルギーの塊みたいなその人は底に歓喜を宿して生きているように見えた。
自由に生きる彼女に夢中になっていく侑真くんの変化に戸惑いながらも、わたしは不眠に悩む北里さんの部屋へと通い続けている。</description>
      <content:encoded><![CDATA[
　彼女が小さく呼吸を取り直してからこちらをゆったりと振り向いた。
　そしてひどく優しい声で教えてあげましょう、とわたしを諭し始める。

「ものすごく慎重な女の人が、どういうわけかバンジージャンプに挑戦して、思い切って橋から飛び降りたのよ」
「はい」
「そしたらちゃんとゴムが伸びて、下に落ちることもなく、けがもしなかった」

　それだけのことだと言いたいらしい。確かにそうかも、と答えた。

「石橋叩かないで渡っちゃったから、気まずくなったりとか、うやむやに終わるのかもって思ってて」
「びびってたわけね」
「なのに、そうなる気配がないんですよ」

　北里さんとのあいだにあるものは、わたしの想像に反して穏やかにまるくまとまってきていた。何となく生きている世界が違いそうに見える相手だったのに、一緒にいる時間が長くなるほど調和的な雰囲気になっているのを肌で感じるのだ。
　素直に安堵すればいいのに、...]]></content:encoded>
    </item>
    <item>
      <title>13-2 - インナー・ヘヴン</title>
      <link>https://mhyfrs.kashi-hondana.com/author/page/1205/section/26628</link>
      <pubDate>Tue, 19 Mar 2024 14:00:00 +0900</pubDate>
      <description>「今でもわたしには暁だけだよ、縒ちゃん」
長年憧れの存在だった侑真くんと偶然街で会ったとき、彼の眼の中に今まで知らなかった色が宿ったような気がした。
その日わたしの隣に立っていたのは大学時代の先輩で、一瞬にして彼の運命を動かし始めてしまったらしい。
学生のうちに起業と結婚を同時に行ってしまった、学内でもひどく目立つ存在だった伊川ひらり。
天才肌で子供っぽい、エネルギーの塊みたいなその人は底に歓喜を宿して生きているように見えた。
自由に生きる彼女に夢中になっていく侑真くんの変化に戸惑いながらも、わたしは不眠に悩む北里さんの部屋へと通い続けている。</description>
      <content:encoded><![CDATA[　そろそろあの人から連絡が来そうな気がする、という気がしているところでひらりからメッセージが届く。縒ちゃん今暇？　連絡してもいい？　わたしは自分の部屋でクローゼットを広げ、仕事に着ていけそうなものを選り分けていた。
　自宅なので大丈夫ですと送信すると、すぐに彼女からの着信が入る。高くふざけた声でひらりは言った。ハロー。生きてる？

「健康です。そちらは」
『はち切れんばかりよ。何かしてた？』
「出勤用の服を選別してました」
『あ、次の仕事決まったんだ？』

　そういえば、まだ報告していなかった。何とか決まりました、こういう仕事で、という説明をすると、ひらりがすぐに教室の名前を言い当てる。
　さすがに業界の人だけあるな、と思ってそう伝えると、最近いとこから相談を受けたばかりなのだという。子供の習い事として考えてるんだけどどう思う？　と。特に力を入れている言語は彼女自身よく使っているものとかで...]]></content:encoded>
    </item>
    <item>
      <title>13-1 - インナー・ヘヴン</title>
      <link>https://mhyfrs.kashi-hondana.com/author/page/1205/section/26627</link>
      <pubDate>Mon, 18 Mar 2024 14:00:00 +0900</pubDate>
      <description>「今でもわたしには暁だけだよ、縒ちゃん」
長年憧れの存在だった侑真くんと偶然街で会ったとき、彼の眼の中に今まで知らなかった色が宿ったような気がした。
その日わたしの隣に立っていたのは大学時代の先輩で、一瞬にして彼の運命を動かし始めてしまったらしい。
学生のうちに起業と結婚を同時に行ってしまった、学内でもひどく目立つ存在だった伊川ひらり。
天才肌で子供っぽい、エネルギーの塊みたいなその人は底に歓喜を宿して生きているように見えた。
自由に生きる彼女に夢中になっていく侑真くんの変化に戸惑いながらも、わたしは不眠に悩む北里さんの部屋へと通い続けている。</description>
      <content:encoded><![CDATA[
　子供向けのプログラミング教室から採用の通知がスマートフォンに届いたのは、二月も半ばにさしかかろうとしていたある土曜の朝だった。北里さんの部屋で、彼と怠惰に二度寝をむさぼっていたときだ。
　寝室の入口にある、小さな棚の上で高い音が鳴った。それが自分のものであることに気づいたわたしは、彼の腕からすり抜けてそろそろとベッドを出た。北里さんが半分寝言のようにわたしを呼ぶので、スマートフォンを掴んで振り返る。

「――何か、あった？」

　薄目でわたしのほうを見つつ、彼は大きく身体を伸ばした。ヘッドボートに向かって倒れる北里さんの腕はきれいだ。筋肉質でもなく、細すぎもしない。手首がきゅっと引き締まっていて、手は大きく指も長い。
　スマートフォンを操作しながらベッドに戻ったわたしは、横向きになっている彼の身体に重なるようにしてそのアプリをひらく。まだ完全には覚醒していないらしい北里さんの手が後ろか...]]></content:encoded>
    </item>
    <item>
      <title>12-3 - インナー・ヘヴン</title>
      <link>https://mhyfrs.kashi-hondana.com/author/page/1205/section/26624</link>
      <pubDate>Sun, 17 Mar 2024 14:00:00 +0900</pubDate>
      <description>「今でもわたしには暁だけだよ、縒ちゃん」
長年憧れの存在だった侑真くんと偶然街で会ったとき、彼の眼の中に今まで知らなかった色が宿ったような気がした。
その日わたしの隣に立っていたのは大学時代の先輩で、一瞬にして彼の運命を動かし始めてしまったらしい。
学生のうちに起業と結婚を同時に行ってしまった、学内でもひどく目立つ存在だった伊川ひらり。
天才肌で子供っぽい、エネルギーの塊みたいなその人は底に歓喜を宿して生きているように見えた。
自由に生きる彼女に夢中になっていく侑真くんの変化に戸惑いながらも、わたしは不眠に悩む北里さんの部屋へと通い続けている。</description>
      <content:encoded><![CDATA[
　その年の秋は、しんみりとやわらかい夜が集まってひとかたまりになったものみたいに思える。
　例年には珍しく、夏に奪われているようで短くは感じない秋だった。眠りの中に思い出が混ざりこみ、自分がどこにいるのかわからなくなったような困惑を持って目覚めるのも珍しくなかった。目の前の現実が、どこか深く遠くに見えた。
　心に引っ張られ、知らず知らず身体もさまよいたくなってしまったのかもしれない。会社からの帰路でわたしがついしてしまう、無駄な寄り道はさらに長くなった。枯れてしまった秋桜が乾いていく線路沿いの道、ぺらぺらした白い光に照らされたファストフードの二階席、小さなモールで流れる閉店間際のBGM。そういう記憶の欠片がいくらでも出てくる気がする。

　こういう日が来るとわかっていたから、峰坂は最後にあんなこと言ったのかな。

　どこか他人事のように思ったのは、自宅から一番近いスーパーで買い物を済ませ...]]></content:encoded>
    </item>
    <item>
      <title>12-2 - インナー・ヘヴン</title>
      <link>https://mhyfrs.kashi-hondana.com/author/page/1205/section/26622</link>
      <pubDate>Fri, 15 Mar 2024 14:00:00 +0900</pubDate>
      <description>「今でもわたしには暁だけだよ、縒ちゃん」
長年憧れの存在だった侑真くんと偶然街で会ったとき、彼の眼の中に今まで知らなかった色が宿ったような気がした。
その日わたしの隣に立っていたのは大学時代の先輩で、一瞬にして彼の運命を動かし始めてしまったらしい。
学生のうちに起業と結婚を同時に行ってしまった、学内でもひどく目立つ存在だった伊川ひらり。
天才肌で子供っぽい、エネルギーの塊みたいなその人は底に歓喜を宿して生きているように見えた。
自由に生きる彼女に夢中になっていく侑真くんの変化に戸惑いながらも、わたしは不眠に悩む北里さんの部屋へと通い続けている。</description>
      <content:encoded><![CDATA[
　何より強く結んで欲しい、といつかの彼女は言った。
　それによってこの人に痛みやひずみが生じない、ぎりぎりの強さで、と。

　彼らが新婚旅行に出かけたのは入籍した年の冬休みで、行先はニュージーランドだったそうだ。
　クリスマスシーズンに治安も良くのんびりしたところに行きたい、という意見が合致した結果らしい。真夏のクリスマスで、ツリーはもみの木の他にポフツカワという赤い花を咲かせる樹木があったことを後のひらりはわたしに教えてくれた。
　入国した日はクライストチャーチで過ごしたけれど、翌日には星空ツアーで有名なテカポ湖に移動したという。
　予約していたのはコテージタイプのホテルで、広々としたつくりやスタッフのカジュアルな対応がふたりの肌には合っていたようだ。旅行期間のほとんどをその周辺で過ごしたらしい。

　――そこで、おばあちゃんとその孫娘みたいな同年代くらいの女の子と知り合ったんだよね。...]]></content:encoded>
    </item>
  </channel>
</rss>
